畑のBackyard

建売住宅群と隣接する東京都23区内の住宅地にある生産緑地に建つ小屋。
施主は都市部の農家として暮らしや飲食店との循環システムをつくり、畑で取れたオーガニック野菜を直売、近隣への提供。さらに廃棄を収集し自ら堆肥化し畑へ戻すという活動をしており、メディア掲載やSNSなど積極的に発信を行っている。そこで、畑・街・思想やメディアといった多面的な振る舞いをもつ小屋を計画した。

 

 

プログラムへの振る舞い

 

まずは作付け面に影を作らないことである。

作付け面積を最大に確保するため、隣家の影の中に隠れるように計画している。「隣家の軒から作付け面の端を結ぶ線」を独自の斜線制限と設定し、小屋の配置や断面形状を計画した。さらに活動の場と、静止の場がある。活動の場所は片流れ屋根の下に半透明のテントをかけることで雨はしのぎ、安定した明るさを確保し直売や野菜の仕分け作業の場となる。静止の場所は前述の斜線にかからないように屋根を折り影を作る。その下に農機具を収納しながら、夏場休むための場にもなる。開かれた屋根はオフグリット化も視野に入れた振る舞いでもあり、直売やイベントを行う際に街の人々へ開いている意思表示ともなっている。長手方向平行に並ぶ壁面は、農具など物を受け止めるための壁面と、通風や彩光をとるルーバー面が機能別に振舞いをガラリと変えている。

 

 

境界としての振る舞い

 

隣地側壁面の畑側は隣地側はグレーのサイディングで仕上げた。準防火地域への対応や安価であることも理由であるが、街並みに対して主張を控える振る舞いとなっている。また畑側の木ルーバー面は畑のアイデンティティーとしても意味を持つ。小径材の反復が同じ野菜が整然と並ぶ畑の風景に馴染みながら、木製でありながら品のよい佇まいをこやに纏わせることで、畑の背景として凛と建つ。その反面、ルーバー面は扉を開いたとたん耐力壁を巻き込んで屏風のように軽やかな存在となる。寄棟の厚みを持った屋根は視覚的に独立し、雨を凌ぐために屋根のみが存在しているかのような軽やかな存在となり、小屋が畑の裏方から表舞台へ参加したような印象をもつ。

 

 

現代の分人主義的都市部の小屋

 

隣地への控えた主張や畑側のアイデンティティとしての主張、軽やかな振舞い。がらんと開け放した農具器具置き場、そこに陽の光やや隣家の影、法規、直売の店舗然とした振舞い。さまざまな局面と相対しそれぞれに分人化することで、所有者の思想を体現した小屋となる。また、その姿は相対するそれぞれの世界へ参加する、アバターのようでもある。

設計:a.d.p

施工:a.d.p

所在地:東京都板橋区

設計:2022年1月

工事:2022年6月

竣工:2022年11月

写真:Takuya Seki

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